青の炎

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    青の炎 (1999年 角川書店 貴志祐介著)



    「問題作」というか、
    読んでいて、とても苦しくて仕方のなかった1冊。

    少年犯罪をテーマとしていますが、
    おい、大人が何とかしてやってくれよ、ホントに。
    と思ってしまうというか、

    世の中で起きている全ての事件の裏側に、こんな背景があったら、
    世界はとても苦しくて、悲しくて残酷だと思います。


    主人公の秀一は、名門校に通う17歳。
    母と妹と3人暮らしだったが、
    ある日、かつて母が再婚をしていたものの、
    暴力やその他の問題で別れたはずの養父が家に転がり込んでくる。
    言動が暴力的で、母だけでなく、妹の体への危機を感じる毎日に、
    家族の生活は疲弊し、崩れて行く。

    秀一は大切な家族を守るために、
    法的手段へと訴え、正当に養父を遠ざけようとする。
    しかし結局は、未成年という理由だったり、その他の壁に阻まれ
    失敗し、さらなる危機感が募る。
    なんとしても家族を守りたい秀一は、
    最終的に、養父を殺めるという、完全犯罪へと手を染める。


    繰り返しだけど、
    これだけ大人がいて、なんで助けてやれないんだよ、
    と、やるせない気持ちでいっぱいになります。

    彼の人生に、何かしてあげることのできなかった
    社会の不甲斐なさ、というか、
    重ね重ね思うけど、こんなことが本当におこっていたら悲しい。

    (そもそも犯罪はあってはいけないという前提は別として)
    やはり、犯罪者は悪いヤツじゃないと、
    その犯罪自体の是非みたいな問題すらでてきてしまう。
    犯罪者がただの極悪人ならすごく単純なのに。


    ただ、このお話でさらに残酷なのは、
    主人公秀一が最初に犯した犯罪から引き起こされた
    もうひとつの犯罪。
    これについては、擁護・弁解の余地はなく、
    結果最悪の事態を招いてしまうけれど、
    もう読んでいるこちらとしては絶句。

    秀一は、すごく頭のキレる少年というか、
    冷静で、理路整然としていて、
    個人的にはとても好ましい言葉の使い方をするので、
    こんな結果へと繋がってしまうことが残念。
    また、普通の高校生のように、同級生と淡い恋愛があったり、
    わずかな友情があったりして、
    それすら少年の人生から奪ってしまったことで
    さらに悲しさを加速させられます。

    少年の人生の歯車を狂わせたのが大人で、
    さらに、大人が何もしてやれないなんて、
    クソすぎる。


    そして、少年犯罪における、17歳っていうのはすごく難しい。
    よく、更生可能性という観点からも語られるけれど、
    何を期待しての更生なんだろう。

    少年法は学生の時にややかじったので、
    当時その存在について、
    やっぱり10代の少年が、彼、彼女の足りない道徳観で
    何か極めて重大な犯罪(特に殺人とか)を犯したとして、
    やっぱり彼は(例として)20年後、それをひどく後悔するし、
    「あの時は若かった」って罪を負いながら思うよ、
    (それが更生ってこと、という意味で)
    ということを話したら、友人から、
    「そんなことを言ったらキリがない。22歳の少年だって、
    20年経てば同じこと言うよ」
    と言われて、返す言葉がなかったのを覚えています。

    難しいよね、
    少年側(少年だけじゃなくて大人も含めた加害者)の観点にたつと、
    更生可能性というのはかなり重要だけれど、
    被害者側から見れば、相手が子どもだろうが成人だろうが
    その実、被害の程度は変わらないんだもの。

    こういうことを考えだすとキリがない。
    書き出してみても、答えなんて出たことがないです。


    読んでいてつらくなるようなお話ですが、
    作品としては本当に良くできていると思います。
    たまには、難しいお話もいかがですか。





    ライフ・イズ・ビューティフル

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      ライフ・イズ・ビューティフル 
      (1997年 イタリア ロベルト・ベニーニ監督)


      続・旧作シリーズ。

      名作すぎて、紹介するまでもないくらいの、
      本当に素晴らしい作品です。

      希望を捨てない大切さと、
      家族の愛の素晴らしさを教えてくれる1本です。
      (この言葉を聞いて、きれいごとだな、とか
       思った人は、まず観てからモノを言っていただきたい)

      あと、将来、子どもを持ちたいという男性には
      絶対観てほしいなと思います。

      部隊は第二次世界大戦のイタリア、
      主人公のユダヤ人男性グイドは、
      小学校教師ドーラと出逢い、彼女に恋をする。
      けれどドーラには別に婚約者がいたり、
      その他たくさんの困難がグイドに覆いかかるけれど、
      グイドはユーモアと人柄でそれを乗り越えて行く。
      また、ドーラのどんな小さな願いも次々に叶えてしまったり、
      ドーラを「お姫様」と呼ぶなど、
      純粋でまっすぐでロマンチストなグイドに、
      (映画を観ているこちらが胸をときめかせてしまうほど)
      やがて2人は結ばれる。

      そして2人の間に息子ジョズエが生まれ、
      ユーモアにあふれたとても幸せな家庭を築くその頃、
      戦況は悪化し、ユダヤ人連行が進み、
      とうとうグイド達にもふりかかる。
      もともと、ユダヤ人ではなかった妻ドーラは、
      連行を免れたにも関わらず、愛する夫と息子と運命を共にするため、
      自らの意志で、連行されてしまう。

      絶望を目の当たりにしたユダヤ人強制収容所。
      グイドは、息子ジョズエにそんな絶望を味わわせたくなく
      ある嘘をつく。

      「これはゲームだ。1000点取ったら戦車に乗って帰れる」

      その嘘と、本当に一生懸命のグイドの努力で、
      ジョズエは絶望の中を(それと気付かずに)上を向いて生きて行く。

      というお話です。

      もう、グイドの人間的素晴らしさに、涙が止まらないです。
      本当に、「最期」まで彼は息子を不安にさせない。
      世界一優しい嘘、と映画の批評で読みましたが、納得。

      わたしも、自分の親と20数年接してきて思うけれど、
      親って言うのは、本当にそういう局面にぶつかると、
      平気で子どものために命を落とせてしまうんだろうと思う。
      (実際、そんな局面はなかったけど)

      わたしは子どもを育てたことがないので、
      その感覚は分からなくて、

      どちらかと言えば、
      わたしの命と引き換えに世界を救ってあげるから、
      翌日はちゃんと新聞の一面に載せてねー!
      なんて、別の、名誉とかを残そうとしてしまいそうな気がする。

      (ミスチルの“HERO”って曲みたいだ)

      また、妻ドーラへの純粋でロマンチックな振る舞いも、
      観ているこっちが心を奪われそうなくらい。

      このお話は、フィクションだけれど、史実を基にしていて
      ユダヤ人迫害という、とても、とても重いテーマで、
      実際には残酷すぎてこんなに甘くないのが現実かもしれないけれど、
      (ちなみに監督は実際に収容所にいたことがありますので)

      でも、何か大切なものを胸の奥に、ぐっと
      置いてくれるような映画だと思います。

      「ライフ・イズ・ビューティフル」というタイトルがまた
      なんとも言えません。
      作品を観終わった後に、改めてタイトルを思うと、
      やはり涙腺が刺激されます。

      主人公グイドの人生はハッピーエンドだったのか、
      映画の外側からみているわたしたちからすると謎だけど、
      それでも、すごく素晴らしく美しい人生を生きたんだと思う。

      こんなに恵まれた幸せな時代に生きるわたしは、
      きっと、彼の生きた(感じた)人生の素晴らしさに勝てない。


      どんな絶望の中でも、
      絶対、上を向いて生きることの美しさ、というか。

      人生は、その主人公次第でいくらでも美しくなる、
      と思わせてくれる1本。




      奇跡

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        奇跡 (2011年 是枝裕和監督)


        九州新幹線全線開通を背景に、
        両親の離婚によって離れ離れになってしまった、
        小学生の兄弟(4年生と6年生)の視点から、
        家族の交流と、子どもの友情を描いたストーリーです。

        離れ離れになった家族で、
        父親・母親それぞれに引き取られてしまった兄弟。
        この設定だけを聞くと、すごくかわいそうで、
        寂しいような気がしますが、
        すごく前を向いた映画だと思います。
        観終えたあとに、不思議な温かさを感じました。


        全線開通した九州新幹線が
        初めてすれ違うその瞬間を見ると、
        「奇跡」がおきる、という話を信じる兄弟が、
        離れ離れになって住んでいる、
        それぞれの地の友人や周囲の人の協力を得て、
        その瞬間を見ようと計画を立てて行きます。


        主演の兄弟をまえだまえだが演じていますが、
        予想以上の好演でした!お見事。
        子ども同士の微妙な感じや、
        思い通りにいかないふてくされた感じとか、
        あと、「無邪気」さがすごく良くできていたと思います。

        実際に無邪気なのと、無邪気さを演じるのは別物。

        大人がやったらただの無神経だけど、
        子どもだと無邪気なんですよね。


        父に引き取られた無邪気な弟は、
        父とも、新しくできた友達ともうまくやっている。
        そのことが、母や兄からしたら、
        すこし、さびしく、おもしろくない。

        父に引き取られた弟が、母と電話をするシーンがあって、
        母は、そろそろ弟が(自分と離れていることについて)
        寂しくなっているんじゃないかと思い、
        「寂しい、お母さんと暮らしたい」と言われるのを期待する。
        でも、弟は全く無邪気なもので
        庭に枝豆だかソラマメだかを植えたから、
        それを育てるので、そっちにはいけないと平気で言ってしまう。
        「寂しいでしょう」とはっぱをかける母に
        「枝豆できたらあげるよ」、なんて返すから、
        電話の向こうで母はポロポロ泣けてしまう。

        このシーンがなんとも言えない。


        大きなハッピーエンドも大事件も起きませんが、
        さりげなく、しみる映画だと思います。

        わたしは昨年シネマテーク高崎で観ましたが、
        高崎映画祭でも上映するようなので、
        気になった方は、ぜひ。

        くるりのテーマソングが、
        またなんとも言えなく良いです。

        イングリッシュペイシェント

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          イングリッシュ・ペイシェント 

          (1996年 アメリカ アンソニー・ミンゲラ監督)

          旧作シリーズ。

          第二次世界大戦の北アフリカを舞台にした、
          ラブストーリー?です。

          物語の冒頭で、とあるイギリスの飛行機が撃墜され、
          そこからひどい火傷を負った男性が救出される。
          偶然に居合わせた看護婦のハナは、部隊を離れ、
          彼の(最後を看取る意味で)看護を申し出る。

          記憶を全て失ったその男は、イギリスの飛行機に乗っていたため
          イギリス人患者とされるが、
          ハナの看護を受けるうちに徐々に記憶を取り戻していく。

          というお話です。

          男性が、看護婦ハナと少しずつ会話を紡ぎながら、
          失った記憶を取り戻し進んでいく現在と、
          彼の記憶をたどって進んでいく過去の世界と、
          2つの時間軸が交錯しながら進んでいきます。

          この映画を最初に観たのは、
          まだ中学2年生くらいのときだったのですが、
          内容ではなく、よさという意味で、
          映画をよく理解することができなくて、
          高校生になって改めてDVDで観返した時に、
          すごく感銘を受けた覚えがあります。


          火傷を負った青年の過去は、
          北アフリカで地図を作る部隊で
          (戦争における地図は大変重要なもの)
          直接、戦闘シーンなどは出てきません。
          いわゆる、ラブストーリーです。
          戦争という環境には、大きく翻弄されていきますが。

          そして、ラブストーリーというか
          ここで描かれているのは不倫なので、
          冷静に考えてみると、
          不倫とかしてる時点で、美しくないよというか、
          (日本人的)社会通念上どうなの・・?
          と言ってしまえばそれまでなんですけど、
          一旦、そういう倫理的なものを取り除いてみると、
          なんというか、ずっしりとくるものがありました。

          最終的にも、決してハッピーエンドにはなりませんが、
          観終わった後に、なんとも言えない気持ちになりました。

          男性が記憶を全て取り戻した時、
          過去と現在が全て繋がりますが、
          その全てを受けて、彼が、
          おそらく致死量に及ぶであろう大量のモルヒネを
          看護婦ハナに向かって打つように手で押すんですが、
          それを見たハナが顔を覆うシーンがなんとも。

          ラストに、ハナが彼を看取った場所を発つ時の
          表情がとても好きです。

          そしてハナを演じたジュリエット・ビノシュがとてもキレイ。



          おススメになったかどうかは謎ですが、
          この映画とても好きです。
          すでに4回は観ているかも。

          初めて観たときは、せっかく映画館だったのに、
          お子様すぎて理解できてませんでした、多分。

          まだ、シネコンとかそんなにない時期で、
          前橋市に文映レッド館・イエロー館というのが
          存在していた頃、そのどちらかで観ました。

          当時は、完全入れ替え制とかじゃなかったので、
          そのまま座ってると、
          同時上映の次のやつも観られちゃうって時代でした。

          この時、トムクルーズの「ザ・エージェント」も
          一緒に観てきたような。
          そっちの方がおもしろかった!とか言ってた気がして
          少し恥ずかしい。

          あぜ道のダンディ

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            あぜ道のダンディ  (2011年 石井裕也監督)



            すごく笑えるのに、すごく泣ける。
            そんな映画でした。

            不器用すぎる家族の絆と、
            中年男の友情がテーマになっています。

            主人公の宮田(光石研)は、
            妻に先立たれ、男手ひとつで
            浪人中の息子と、高三で受験生の娘を育てているが
            不器用すぎるというか、天然というか、
            子どもたちと全くコミュニケーションが取れない。
            そんなときに、胃に違和感を覚え、
            自分が妻と同じ胃がんではないかと疑い始める。

            また、宮田には古くからの親友、真田(田口トモロヲ)がいる。
            真田は子どもがいないことと、長い間親の介護があったことで
            奥さんと別れている。
            真田にだけは病気のことを打ち明け、
            残された時間で何とか子どもたちと
            コミュニケーションをとろうと奮闘していくお話です。

            もう、何ていうか、
            ダメおやじぶりが最高。

            娘とはロクに会話もできないままだし、

            DSのような携帯ゲームで遊んでいる息子と、
            通信機能を使って自分も一緒にやりたいと、
            こっそり家電量販店に同じゲーム機を買いに行くも、

            店員に聞いた方がいい、という親友・真田のアドバイスに、
            「そんなことしなくていい!」と一喝。
            これに決まってる!と買った「ポケボーイ」という
            謎のゲーム機を持って息子に近寄ると、
            「それ、俺が持ってるのと違う」
            と冷たくかわされてしまう。

            これだけだと、本当に救いようのない
            ダメ主人公なのですが、
            この映画の素敵なところは、
            中年男の友情だと思います。

            ぶっきらぼうで、不器用で、愛想がなくて、
            思い込みが激しくて、頑固で、意地っ張りで、
            それのどこがダンディなんだ・・と思うほど
            正真正銘のダメおやじなんだけど、
            そんな宮田を親友・真田が
            とても温かく支えています。

            宮田はそんな真田にすら、時に意地を張ってしまうのに、
            そんな部分も含めて、連れ添うのが親友なのかもしれません。


            中年男の、カッコいいとは言えない
            友情に、観ていて涙が止まらないんだから
            一本取られた!
            という感じです。

            最終的には、「ダンディ」というタイトルであることを
            納得してしまう気がしました。


            そして、この映画は群馬ロケを行ったので、
            群馬在住の方は、別の意味でも
            おもしろく観られるかも知れません。

            わたしは、この映画に登場する
            「小塙」という居酒屋がとても好きです。


            泣いたり笑ったり忙しいですが、
            温かいものに触れたい人はぜひ。



            沈黙の春を生きて

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              沈黙の春を生きて  (2011年 坂田雅子監督)


              とても、とても重い映画でした。

              ベトナム戦争時に、
              アメリカが散布した大量の枯れ葉剤による影響で、
              今もなお苦しみ続ける人たちをテーマにした
              ドキュメンタリー映画です。

              ベトナム戦争で、
              広大なジャングルに潜むゲリラの隠れ家を無くすため、
              また、食料的に追い詰めるために、
              大量の枯れ葉剤(ダイオキシンなどを含む超有害な薬品)が、
              およそ10年に渡り、ベトナムへ空中から散布されました。

              当時の発表によると、枯れ葉剤は、人体に影響はなく、
              効率的に植物だけを枯らせ、
              土地はすぐ元に戻るとのことでした。

              この映画では、
              すでにその時期に「沈黙の春」という書籍で
              農薬に含まれる物質が人体に大変有害であるということは
              発表されていて、
              その後から、農薬と同じ成分をもつ枯れ葉剤が、
              散布され続けていたとの指摘があります。

              ドキュメンタリーなので、
              もちろん出てくる人は全て実在の人。

              映画の中心になるのは、アメリカ人の女性ヘザー。
              ヘザーは、アメリカのベトナム帰還兵の娘。
              ベトナムでの兵役中に、枯れ葉剤を浴びた父の影響で、
              足や指がない状態で生まれ、
              幼少時から、たくさんの苦悩と闘いながら、
              現在では夫と子どもと家庭を築いている。

              ヘザーが、ベトナムを実際に訪れ、
              同じように枯れ葉剤の影響で苦しみ続けている人を
              訪ねて行く形で映画が進んでいきます。

              全く知能を持たない、
              体を動かすことも困難な子どもを育て続ける家族や、
              意識はしっかりあるけれど、体の一部分が足りない人。

              (そもそも、人間を定義した時に、
              何をもって完全系で何をもって障害なのか、
              というのはあまりに深く難しいのでここでは触れません)

              また、皮膚病で、観ているこちらが目を覆いたくなるような
              擦れ爛れた皮膚をもつ兄妹。
              彼女たちの母親は彼女たちを横にして言う、
              「こんな子どもを持って不幸だ」と。

              わたしたち日本人の感覚からすると、
              何て事をいうんだろう、と思ってしまうけれど
              この兄妹はもちろん、お母さんだって悪くない。

              ただ、このシーンに違和感を覚えて、
              翌日に、映画に精通した人に話をしたら、

              「ドキュメンタリーを観るときに、
              気をつけなきゃいけないことがあって、
              例えば、ずっと苦痛を強いられているのに、
              今まで一度も光を当てられることがなく、
              誰にも気づいてもらえなかった人たちは、
              カメラが回ると、人が変わってしまうことがある。
              今、みんなに、このかわいそうな自分を全て伝えなきゃと、
              無意識のうちにアピールをしてしまうことがる。

              きっとそのお母さんは普段からそんなんじゃないよ」
              と言っていました。

              そして、坂田監督はこの映画の前に
              「花はどこへ行った」という映画を撮っていて、
              同じように、ベトナム戦争での枯れ葉剤を、
              ベトナム側の被害をテーマにドキュメンタリーで追ったところ、
              「私的」すぎるとの理由で
              アメリカで上映できなかったとのこと。
              それが、今回アメリカ・ベトナム双方の被害者を
              撮ろうという理由になったのだとか。



              本当に悲惨としか言い様がないそんな状態、
              その「わたしたちが勝手に悲惨と思う状態」を
              それでも必死に生きている。
              先天性、というものはあまりに残酷。

              何をどうしても、絶対にどうにもならない、
              (確かそんな状態のことを絶望と言うのじゃないでしょうか)
              受け入れても、受け入れられなくても、
              それでも生きて行かなきゃいけない人たち、
              今頑張らなきゃとかそんなものはなくて、
              一生背負い続けて行かなくちゃいけない。

              その彼・彼女らの発する言葉に涙が止まらなくて。

              ただ、もう何て言うか、この映画を観て
              呑気に泣いている自分が存在してしまっていること自体
              申し訳なくなるような気持ちになりました。

              言葉がない、というのが素直な感想かも知れない。

              この映画を観たところで、
              何を受け取ればいいのか分かりません。

              世の中というのは本当にクソで、最低で最悪で
              ただ、わたしは、こんなクソすぎる世の中のほんの一部の、
              奇跡的に幸せ地帯を生きているんだな、
              と思いました。


              昨年末に、「チェルノブイリハート」という映画を観ました。
              タイトル通り、チェルノブイリの原発事故の被害に
              今も苦しむ人たちのドキュメンタリーです。
              また、数年前に観た、「闇の子どもたち」
              これもきっと今もなお続く、問題ですよね。

              世界にはいくつ、こんな最低なことがあるんだろう、と思う。
              映画で観たのはほんの一部で、
              まだまだいろんなことがあるんだろうなと思う。


              よく、仕事をしていると、
              いろんなとこで、いろんな人が繋がって、
              「世間は狭いよね」なんて言うことがあるけど、
              全然そんなことない。
              普通に生きてたらこんな問題には出会わない。

              ただ、広い世界の、
              本当に狭く恵まれたごく一部の共同体のなかで
              のびのび生きているだけなんだなあと。

              この映画を観た日、わたしの住んでいる地域では選挙があり、
              いたるところで選挙カーがアナウンスしてましたが
              「明るい未来を」とか聞くだけで
              気持ちが悪くなりそうでした。

              この映画をみたところで、
              何か変わるかと言ったら、きっと何も変わりません。


              ただ、せめて、
              知っている人、考える人でありたいなあ、とは思いました。


              人に勧める映画かは謎ですが、
              世界って言葉を使うなら、
              一部として知っておいた方が良い現実のような気はします。

              心を強く持てる人はどうぞ。



              スロウハイツの神様

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                スロウハイツの神様  (2007年 講談社 辻村深月著)


                物語のラストで、とにかく「やられた〜!」
                って思ってしまう1冊。
                不思議と涙が止まりません。

                優しさだけでこんなに泣けるのは
                すごいと思いました。


                スロウハイツ、というアパートに住む住人たちのお話。

                現代版「ときわ荘」とまではいかないかもしれませんが、
                スロウハイツに住む住人達は、
                売れっ子の漫画家・脚本家を筆頭に、
                映画監督の卵・漫画家の卵・写真を撮る者など、
                さまざまな創作活動を行う人たち。


                それぞれが何かと闘いながら日々生きている。
                各人が個々のエピソードを持ち、
                それが各章になって物語が進んでいきますが、
                特に大きな事件が起きず、変化のないまま淡々と過ぎて、
                また、そもそもがアニメ作家などの話なので、
                若干わたしたちとは感覚が違うというか、
                ああ、そういう感情や表現もあるんですね、とは思うけど、
                そこまで共感をしなかったり。
                加えて上・下巻と少し長いので、
                もしかしたら、途中で退屈を感じてしまう人もいるかも。

                ただ、この本は、最後まで読まないともったいない!
                途中まで読んでいる時に、
                「その本どう?」
                と聞かれても
                「いやあ、よく分かんないな」
                って答えてしまいそうですが、
                読破した後に、同じ質問をされたら、
                絶対に「良かった!!」
                って言うと思います。

                全13章から構成されていますが、
                後半の章で、中心核の人物の過去を語る章があり、
                軽く、裏を突かれた気持ちになります。
                お弁当箱の中でちょこちょこやってたのが、
                その下に敷いたランチョマットごとひっくり返されたような。

                で、そのまま最後まで読み進むと
                最終章で、とにかく「やられたー!!」と。
                ランチョマットひっくり返されたんじゃなかった、
                その下のテーブルクロスごとの大どんでん返し!みたいな。

                何て言うか、
                「ああ、そういうことか」と、最終章を読みながら、
                今まであったものが繋がっていって、
                ある程度、先がよめちゃうんですけど、
                先がよめるにも関わらず、分かっているのに涙が止まらない。

                人が優しいだけでこんなに泣けるのはすごい。

                別に、何かを求める訳でもなく、
                ただ、本当にさりげなく、
                さりげなすぎて、絶対相手に気付かれることはないけど、
                気付かれないから、一生感謝されることはないんだけど、
                それでも、相手はその優しさのおかげで、
                少しだけ救われていく。

                外側からそれを読んでいるわたしたちには分かるけれど、
                実際の相手には、伝わることは一生ないからね。
                切ないような、もどかしいような。
                それが実際の人生なんでしょう。

                優しさって、それを与えたことを相手に確認させると、
                時に「これだけの恩をもらったから」と
                相手を縛ったりする。
                (もちろんそれはそれで、「感謝」という素敵なことだけど)
                こういうのは、本当の意味で相手への優しさなんだなあ、
                と思ってしまう。



                前半で退屈したのを忘れちゃうくらい、
                温かいラストでした。

                あと、もう一度読み返すと、
                そんな前半の中に大どんでん返しのヒントがたくさん。

                物語にクセはありますが、
                優しいお話でした。


                もし、この本を実写化するなら、
                チヨダ・コーキは絶対、若き日の加瀬亮しかいないと思います。

                さらに言うと
                狩野は森岡龍くん、
                黒木は光石研
                円谷は濱田額くんですね。

                読んだ人には分かると思うキャスティング。

                でも、ちょっと長いので、(さらにクセもあるので)
                時間がいっぱいある人にどうぞ、というお話です。



                舟を編む

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                  舟を編む (2011年 光文社 三浦しをん著)



                  「辞書」を編纂する出版社の部署のお話です。

                  語り手が数人いて、1冊の辞書を編纂し出版するまでの
                  ひとつの物語になっています。

                  おそらく主人公格にあたる青年がとても好ましい。
                  言葉を扱うにふさわしいというか、どこか古風で、
                  とにかく本が好きで、変わっています。
                  何気なく生活する中で、ふいに出てきた言葉、
                  例えば「あがる」と「のぼる」の意味を考えていたり。

                  この本を読んでいる途中、とにかく辞書が読みたくなりました。
                  辞書は本来、読むものではなく、
                  日常生活の中で、知らない言葉に出逢ったときに、
                  その意味を求めて「ひく」ものだと思うのですが、
                  この本を読み終えて、まず、辞書が読みたくなりました。

                  【語釈】という、辞書において、掲載の言葉を説明する文章。
                  ある言葉を説明するためには、
                  どうしても別の言葉を用いないといけない。

                  例えば、「女」とあった時に、
                  その語釈が「男でない方の性」とか
                  「右」を説明するときに「左の反対側」だったら足りないですよね。
                  その【語釈】ひとつひとつが、辞書によって、個性的でおもしろい。
                  いざ、気をつけて語釈を読んでみると結構笑えたりもする。

                  専門的な用語に関してはその分野の専門家や、学者に
                  執筆を依頼しますが、
                  それぞれの言葉で書いてくるので、統一しないと辞書として
                  成り立たない。

                  また辞書の最大の売りである、掲載用語数。
                  辞書を作る際に、どんな言葉を載せるか、
                  その何万にも及ぶ膨大な言葉の数をリストアップして、
                  採用不採用を決めていく。

                  普段、特に社会人になると忘れがちな辞書の存在、
                  その魅力を、存分に教えてくれる一冊でした。

                  どちらかと言えば辞書は好きなので、
                  学生の時なんかは、電子辞書より紙の辞書派で、
                  語学がある時なんかが第二外国語と足して2冊
                  (あと六法もあったから)
                  肩が取れちゃうんじゃないかって鞄を持ってたり。
                  ただ、最近は、知らない言葉に出逢うと、
                  ネットで調べちゃうことが多いので、なるべく辞書をひきたいなと思いました。
                  もったいない。

                  もうひとつ、この本の素敵なところは、
                  人と人の間で、やりがいをもって働くことの素晴らしさを
                  良く書いているところかと思います。
                  それぞれ、想いを持って、時に自分の人生をかけるほど、
                  一生懸命に働くということ。
                  もはや、ただの「仕事」というより「ライフワーク」という
                  言葉の方がよく当てはまるかも知れません。
                  なんだかとても、かっこいい。

                  あと、三浦しをんさん、文章がとても美しいな、と思いました。
                  以前に読んだ「風が強く吹いている」もそうだったんですけど、
                  文章がとても美しいです。
                  わたしも割と古い方で、「ら抜き言葉」とか嫌だったり、
                  若い人が「わたしは」の「は」を「ゎ」とか書くの信じられなかったり、
                  「現実的に」のことを「リアルに」とか聞くと、
                  ちょっと背中がかゆくなる気がするくらいですが、
                  読んでいて心地の良い文章でした。


                  言葉が好きな人にはもちろん、
                  仕事をしている人にぜひ読んでいただきたい!

                  風が強く吹いている

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                    風が強く吹いている (2006年 新潮社 三浦しをん著)


                    箱根駅伝をテーマにしたお話です。

                    必死になって想いを繋いでいくことが、
                    本当に素晴らしいと思える1冊。

                    そこまで、箱根駅伝が好きでなくても、
                    「あーお正月にやってるよね」くらいの知識でも
                    十分に楽しめる作品だと思います。


                    才能を持ちながらも、高校時代に不祥事を起こし、
                    長距離から遠ざかるように大学へ進学した蔵原走(かける)。
                    同じく、才能を持ちながら、故障に苦しんだ清瀬灰二(ハイジ)。
                    偶然とも運命とも言える出逢いから、
                    箱根駅伝とは程遠いような大学で、陸上部を立ち上げ、
                    彼らの寮である青竹荘の住人たちと
                    箱根駅伝へ挑むというストーリーです。

                    この本を読んだのは、まだ大学生の時でしたが、
                    昔から、箱根駅伝というものがとても好きだったので、
                    最初の部分での、
                    全く箱根駅伝を知らないような陸上経験浅い連中が、
                    いきなり箱根駅伝を目指そう、なんて設定がとにかく許せなくて。

                    いやいやいや、箱根ってそんなに甘くないから。
                    箱根をバカにしている!って思ってしまっていました。

                    ただ、読み進めて行くうちに思ったのは、
                    筆者が相当な取材を重ねた上に書いたのかなという、
                    最初の設定を忘れてしまうほどの
                    登場人物の成長と一生懸命な想いでした。

                    春先の結成から、夏場の訓練、予選会突破を経て
                    本選へと進んでいきますが、特に本選の描写なんかは、
                    読み応えがあります。


                    陸上競技の長距離、ではなく、
                    あくまで「箱根駅伝」をテーマにしたお話で、
                    箱根特有の「襷」を繋ぐこと、
                    想いを繋いでいくことの美しさが良く表現された作品だと思います。

                    限界ギリギリのところで、あるいはそれを超えてまで
                    必死になる姿とは本当に素晴らしいなと思います。
                    「一生懸命」って本当に美しいなって思うんですが、
                    それが、仕事であれ、スポーツであれ、音楽であれ、
                    人が何かに懸ける一生懸命な姿は、本当に美しい。
                    ただ、仕事とかと違って、スポーツの場合は、自分を追い詰めて行くのが、
                    精神的だけじゃなくて、肉体的にも限界なところまで行くから
                    (陸上の長距離はその傾向がより強い)
                    胸を打つほどの感動を覚えるのかもしれない。


                    陸上競技自体が、個人戦で、1人で挑むものだけれど、
                    長距離は、その「1人で戦う時間」がとても長くて、
                    それが駅伝にになると、チームができて、団体戦のように見えるけど、
                    でも、実際は同じコートで同時に戦える球技なんかと違って、
                    走り出したら襷つなぐまで、やっぱり1人の戦いなんですよね。

                    頑張るしかないし、信じるしかないって言う。



                    箱根駅伝自体が本当に素敵なものですが、
                    この「風が強く吹いている」は
                    箱根が好きな人が読んでも、
                    そこまで詳しくない人が読んでも、楽しめる作品だと思います。

                    そんな時期になりましたので、ぜひ。

                    恋文の技術

                    0
                      恋文の技術  (2009年 ポプラ社 森見登美彦)


                      くだらない。
                      とにかくくだらな過ぎる。

                      「恋文の技術」という、
                      聞いただけでも美しく素敵なタイトルを、
                      無残にもぶっ壊してくれるに足りるくだらなさ。

                      でも、おもしろい!


                      京都の大学院生が、
                      研究のために、能登半島はど田舎、まわりに何もなく、
                      研究以外に本当に何もないところへ赴いたのち、
                      退屈のあまり、京都の友人たちへ手紙を書き、
                      その手紙のやりとりの文面で進んでいくお話です。

                      物語は、全て手紙に沿って進んでいきますが、
                      その手紙を読んでいるだけなのに、たいていのことは
                      分かってしまう構成になっています。

                      ただ、登場人物が過去の作品と重なっていたり、
                      独特の表現もあるので、森見登美彦さんの
                      「四畳半神話大系」や「夜は短し歩けよ乙女」を先に読んでいた方が
                      より楽しめるかもしれません。

                      この話を読む前に読んでいた本が、
                      わりと真面目なものだったので、
                      読み始めた当初は、そのあまりのくだらなさに、
                      拍子抜けしてしまい、若干退屈を感じてしまったのですが、
                      途中からもう、笑いが止まらなくて。

                      特に、この友人が想いを寄せているという
                      伊吹さんという女性へあてた手紙が最高傑作。

                      想い人へ、いわゆる、「恋文」のはずなんですが、
                      うまく書けなくて全て失敗作に。
                      自己アピールをするあまり、ホラまで吹き出してしまいボツ。
                      現実をみようと、今度は自分の実情を述べると、
                      マジでこんなヤツやめた方が良いとまで書いてしまいボツ。
                      相手を褒めすぎて、意味のわからないことまで褒め出してボツ。
                      形式ばって「〜の折り、〜の候」とか書いてみてボツ。
                      古い表現や敬語は距離をうむから、親しみをこめて
                      「やっほー、僕だよ☆」と書いてみて気持ち悪過ぎてボツ。

                      どうしてボツになったか、その度反省して、
                      教訓を活かして書くのに、やることが極端すぎておもしろい。

                      本当にくだらないですが、おもしろい1冊です。

                      得るものゼロ(笑)

                      わたしも、割と、社会派の映画や、本などから
                      いろいろ得て生きている方ですが、
                      森見さんの作品は、
                      (本人も何かのインタビューで言っていましたが)
                      読んだところで何も得るものがない(笑)

                      そこが良いところなんですよね。
                      くだらないはずなのに、それを文学的に、ユニークにしちゃう
                      レベルの高さ。
                      ニクいです。






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